「一つの事件に2人の犯人」 中国紙が晴らした冤罪の闇
習近平(シーチンピン)国家主席が「法に基づく統治」を唱え、司法改革を進めようとする中国で最近、冤罪(えんざい)が相次いで発覚している。ずさんな捜査や公判が明らかになり、罪を着せられた人の名誉が回復される一方、司法も共産党の指導下にある中国ならではの闇も浮かび上がる。
昨年12月2日、一つの無罪判決が、最高人民法院(最高裁に相当)による再審で言い渡された。23年前の1994年、河北省・石家荘の農村で起きた強姦(ごうかん)殺人事件だ。
当時、犯人とされた聶樹斌(ニエシューピン)さんは、スピード裁判で二審判決が出たわずか2日後に死刑が執行されており、中国メディアは「遅すぎた正義」などと報じた。
無罪判決の約2週間後、自宅で取材に応じた母親の張煥枝さん(72)は「名誉が回復され、気持ちがだいぶ軽くなった」と話した。当初は強姦殺人犯の汚名を着せられた人の家に近づく人はおらず、つらい思いもした。「進展がない時は、重苦しい気持ちだった」と振り返る。
再審判決は、当時の捜査や公判について多くの問題点を指摘した。
聶さんが捕まってから犯行を自供するまで5日間の調書がない▽動機や被害者の特徴についての供述が二転三転し、当局が誘導した可能性がある▽発生後50日間の多くの重要証人の証言記録がない▽聶さんの犯行を示す有力な証拠となるはずの出勤簿が押収されているのに、証拠に含まれていない▽拘束から数カ月後に具体的な犯行日時を供述するようになったのはおかしい▽被害者の首を絞めたとされる凶器の衣類は聶さんが盗んだと自供しているが、入手経路などに疑問点が多い――などだ。
結局、最高法院は「聶さんの犯行を証明する客観的な証拠が欠けており、第三者による犯行の疑いがある」と結論付けた。捜査当局による証拠の捏造(ねつぞう)までは認めなかったものの、自白に偏った捜査の危うさに警鐘を鳴らす内容だった。日本の冤罪事件とも共通する課題とも言える。
最高法院は「深刻な教訓をくみ取る必要がある」としつつ、「共産党は誤りは正す。これは司法改革の成果だ」とアピールした。
再審の弁護を担当した李樹亭弁護士(52)は「時間はかかったが、最後には汚名がそそがれた。この無罪は中国司法史上の一里塚だ」と評価した。
ただ、判決で指摘された問題はなくなっていないという。「捜査、公判がきちんと法律で定めた手続き通りなら、このような間違いは起きない。自分たちのやり方と法律の手続きは関係ないと考える当局者が今もいる」と批判した。
李弁護士によると、被告本人が罪を認めていたこともあり、一審の審理時間はわずか1時間余り。弁護側の姿勢にも問題があった。犯行時間ははっきりせず、物的な証拠もほとんどない。強姦罪に問われているにもかかわらず、被害者の遺体から被告の体液が検出されたという証拠すらなかった。「裁判所が意見を採用したかどうかは分からないが、これだけの重大事件であれば、証拠を精査し、無罪を主張すべきだった」と残念がった。
■「真犯人」の証言をスクープ
聶さんの冤罪を晴らすきっかけを作ったのは、隣の河南省の新聞社による報道だった。
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