「施設イヤ」子どもの意思、どう尊重(児相の現場から)
ノートの上に置かれた職員のめがね。夜になると、目もかすれてくる
■第5章「児相の素顔」(5)
「お母さんといたい」
小学校低学年の女の子が、学校に駆けつけた児童相談所(児相)のワーカー(児童福祉司)の前で繰り返した。
精神的に不安定な母親が、小学生の娘のランドセルを放り投げたり、娘をけったりしていると、前の日に小学校から児相に情報が寄せられていた。母親が包丁を持ちだしたという情報も。
一時保護するつもりで、虐待対応チームのワーカーら3人が学校に向かった。
状況を尋ねるワーカーに女の子は「肩をたたかれた」「足をたたかれた」と話した。だが、「けられた」とは言わない。目立った傷もなかった。もともと養育が難しい家庭で、女の子は以前、児童養護施設に預けられたことがある。
ワーカーが保護したい旨を伝えると、女の子は「施設はイヤ」と言った。ワーカーは説得を続けたが、首を縦に振らず、この日の保護は見送られた。
子どもの安全を守るため、児相は親の同意がなくても職権で子どもを一時保護することがある。
ただ、この児相では、意思表示できる年齢の子どもに対しては保護の理由をきちんと説明したうえで、承諾してくれるかどうかを尋ねる。いやがる子どもを引きずっていくわけにはいかず、承諾してくれなければ保護は見送らざるを得ない。
この女の子の場合、子どもに変化がないか学校に注意を払ってもらいつつ、ワーカーは子どもへの説得を続け、母親への支援や同居する祖母との面会などでもフォローしていくことにした。
子どもの安全を守るため、児童相談所は親の同意がなくても職権で一時保護に踏み切ることがある。その場合は子どもの意思を確認しながらの作業になる。時には、子どもがいやがり、保護が見送られることもある。
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