おとり捜査で服役、ロシア人男性の再審開始へ 無罪訴え
約20年前に日本で銃刀法違反の罪に問われ、服役を終えたロシア人男性の再審公判が23日、札幌地裁で始まる。捜査を担当した元北海道警警部が「違法なおとり捜査だった」と明かすなどし、再審開始が決定。静かに暮らす男性は来日し、法廷で無罪を訴える。
アンドレイ・ナバショーラフさん(47)は船員だった1997年8月、北海道の小樽港を貨物船で訪れた際、道警の捜査協力者だったパキスタン人の男性に拳銃と中古車の交換を持ちかけられた。同年11月、父の遺品の拳銃1丁と実弾16発を携えて小樽を再訪。パキスタン人に渡そうとして、道警に現行犯逮捕された。
札幌地裁は98年、捜査協力者の存在を認めず、おとり捜査はなかったとして、懲役2年の実刑判決を言い渡した。担当した弁護士によると、ナバショーラフさんが早期の帰国を強く希望。判決には納得していなかったが、控訴しても長引くだけだと判断し、判決を受け入れたという。
ナバショーラフさんは東京の刑務所での服役中、工場でぬいぐるみの製造をしていた。休みの日は本を読んで過ごすことが多く、刑務官らとは英語で会話していたという。「週に2度できるサッカーが楽しみだった」と振り返る。
一方、日本海をはさんで北海道と向き合うロシア沿海地方の町には、妻と当時9歳と5歳の娘2人が残された。唯一の稼ぎ手だった夫が不在となり、妻が仕事をし、親類から支援を受けた。ナバショーラフさんは出所後に強制送還され、家族と再会。船員には戻れず、木材の伐採などの仕事をしていたという。
だが2002年に急転。捜査を担当した道警の元警部が逮捕され、違法捜査の疑いが浮上した。その後、ナバショーラフさんが損害賠償を求めて起こした民事訴訟で、元警部が「違法なおとり捜査だった」という内容の証言をした。
弁護団は13年、元警部の証言などを新証拠として再審を求めた。札幌地裁は昨年3月、「違法なおとり捜査があった」と認定し再審開始を決定。検察の即時抗告に対し、札幌高裁は昨年10月、おとり捜査の違法性には触れなかったが、捜査協力者の存在を記載しないなど捜査報告書に虚偽記載があったことなどから、裁判の公正を疑わせると判断し、再審開始が決まった。
ナバショーラフさんは札幌地裁の再審開始決定を受け、弁護団を通じ「日本は正義の国であってほしい。警察が無実の人を欺くようなことがあってはならない。私のような目に遭う人が今後現れないことを望む」とコメントした。
再審で弁護団は、改めて「違法なおとり捜査だった」と主張する。一方、検察側は有罪の立証をしない方針で、無罪が言い渡される見通しだ。
仕事のためクリミア半島に住むナバショーラフさんは、入国のための特別の許可を得て、21日に来日する予定だ。朝日新聞の取材に「私の事件で協力してくれた全ての人に感謝している」としつつ、事件については「日本に行って弁護士の了解を取って答えたい」と口をつぐんだ。(森本未紀、関根和弘)
■ナバショーラフさんをめぐる経緯
1997年 銃刀法違反容疑で現行犯逮捕
98年 札幌地裁で懲役2年の実刑判決を受け、確定
2002年 捜査に関わった北海道警の元警部が覚醒剤取締法違反容疑で逮捕され、違法捜査の疑いが浮上
05年 国や北海道を相手に損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こす
10年 札幌地裁が虚偽の捜査書類作成などを認め、道に慰謝料の支払いを命じる。おとり捜査は認めるが「違法とは断定できない」と判断
16年 札幌地裁が「違法なおとり捜査があった」と再審開始を認める。札幌地検が即時抗告したが、札幌高裁が棄却、再審開始が決定
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