女が男を意識しすぎてるんじゃない? 瀬戸内寂聴さん
3月8日は国際女性デー。現在94歳の瀬戸内寂聴さんは、生きる上で大切な「愛」について柔らかな笑顔で話しました。「そうか、自分の心に素直に生きればいいのか」とすとんと胸に落ちました。
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こういうふうにね、あなたたち女性(この日、瀬戸内さんを訪ねた記者とカメラマンの計3人)が、同じような年ごろで仕事して、男をひとりも交えないで来てくれる、気持ちいいわね。そういうことが出来る時代になってきた。とてもいいことです。でもあなたたち、みんな独身なの? 結婚は必ずしもしなくてもいいけれど、男がいないなんてのはね、貧相だから、つくんなさい。
男にはできない、女のよさがあると思いますよ。そこにお茶があって、人がいたら、入れてあげたらいいと私は思うんですよ。女だから入れさせられる、なんて血相を変えることはないと思う。もっとこう、堂々としてたらいいんじゃないかしら。女とか男とかにこだわらないほうがいいんじゃないかしらね。私は割合、女とか区別しなかったから。かえって男にもてましたよ。
勉強でも仕事でも「これ以上頑張ったら、男にいやがられるんじゃないか」と感じるのは、女が男を意識しすぎてるんじゃない? 女の方が一歩下がっているんじゃないかしら。もし本当に女の方に男女同権の意識があるならそんな風に思わない。
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■女性の方が線を引いている
そもそも、今の若い男の子は「女らしさ」なんて求めてないんじゃないかしら。一緒にお酒を飲んで、一緒に酔っ払えたらいいと思っている。もし、嫌われるんじゃないかと思うとしたら、それは女性の方が線を引いているからじゃないでしょうか。
若い子たちと話していると、私の方がびっくりして目を見張るようなことがいっぱいありますよ。ですから私は、いい方に進んでいっていると思っていますけどね。例えば私の若い頃は結婚しないで子どもを産むなんて考えられなかった。離婚した女は傷物と呼ばれた。今は離婚なんて女の勲章など言われている。平気じゃないですか。世の中は変わるのね。
変えていくのならね、女が、自分たちの都合のいいように変えていかなきゃね。そうじゃない?
今はまだ、男社会のところがずいぶんあるじゃないですか。女性の大臣もなかなかいない。半分くらいいたっていいと思いますけどね。女にとって良いように変えていくためにはまだまだ勉強しなきゃだめだわね。
■立派に男と対抗していけるはず
今まで女が世の中に出られなかったのは、男社会だったのと、日本社会が貧しかったので男は大学にやるけれど女の子は勉強しなくていいというのが普通だった。今は女も勉強できる時代だから、どんどん資格も取って、立派に男と対抗していけると思う。
「女らしさ」にこだわるのは、親のしつけじゃないでしょうかね。うちは母がずっと働いていたし、父は職人で弟子がたくさんいて忙しかったから、子どもは放っておかれた。
ただ、母には「お前は器量が悪いからニコニコしていなさい」と言われたわね。ニコニコした顔は誰でもいい顔だからってね。だからニコニコしていたらみんなにかわいがられました。でもそれはね、こびへつらうという意味じゃないの。自分に自信がないとニコニコできないでしょ? 誰にでも必ずいいところがあります。そこを大事にしていけばいいのよ。
生まれたとき、自分の中に可能性を与えられて生まれているんですね。生きるということは、自分の中の可能性を引き出して、それに肥料をやり水をやり、思い切り大輪の花を咲かせることだと思う。生まれたときに、いい妻になる、いいママになる、政治家になる、芸術家になる……色んな可能性がすでに女の赤ちゃんの中にあるんですよ。
可能性を見つける方法が分からないときは、好きなことを考えればいい。どんな人でも、好きなこと嫌いなことが必ずある。親ができることはまず子どもの中の可能性をみつけてやること。本人がやるのは自分が何を好きなのかを考えることね。好きなことをやれば必ず成功できます。
成功にたどりつかなくて人生が終わっても、好きなことをしていたら幸せよ。それに、必ず何らかの花を咲かせます。思ったよりちいちゃい花かもしれないけどね。生きたあかしですよ。
■無償の愛さえあれば
「青鞜」(日本で最初の女流文芸同人誌)の周りの女たちについて書いたときに、これだと思った「青春は恋と革命だ」という言葉が好きです。失敗したっていいの。今だって、女の子がみんな、「青春は恋と革命だ」って生きていたらね、世の中よくなりますよ。戦争はいやだとか、政府は間違っているとか、立ち上がってね。
愛があれば、すべてのことは解決すると思います。ただ、私たちの愛はね、10の愛を与えたらね、利息をつけて12の愛を返して下さいと思う。それは、本当の愛ではない。
本当の愛は無償の愛です。見返りを求めない愛ね。それが本当の愛です。無償の愛さえあればね、難民が入ってきてはいけないなんて国境に壁をつくったり、みっともないことはしません。人間に愛があれば戦争なんてしない。ですからみなさん、大いに愛して下さい。たくさん愛して下さい。無償の愛で。(聞き手・山田佳奈)
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1922年生まれ。作家、僧侶。「曼陀羅山(まんだらさん) 寂庵(じゃくあん)」で毎月、写経の会と法話の会を開いている。20代以下を対象にした文学講座を開いたり、安保関連法に反対した学生団体「SEALDs」のメンバーと対談したりするなど、若者へのまなざしも優しい。