一人のはずの卒業式、扉を開けると

写真・図版名前を呼ばれたのは、たった1人。でも、みんなのまなざしを背中にいっぱい感じて、校長先生から卒業証書を受け取った(東京都葛飾区立青戸小提供)

3月27日の朝。僕はブレザーを着て学校に向かった。東京都葛飾区立青戸小学校。3日前に卒業式があったけど、僕は39度の熱が出て、出席できなかった。

ようやく熱も下がって、卒業証書を受け取りに行く。毎日通った通学路。きょうは、お母さん、お兄ちゃん、弟も一緒だ。

あれ? 同級生の男の子がいる。もう春休みなのに。「どうしたの?」。声をかけたら、少し慌てた様子。「卒業式の日に、お父さんが間違えて学校のスリッパを持ってきちゃった。返しに行く」。僕のお母さんが「代わりに返してきてあげる」と言ったけど、「いいよ!」。走って行っちゃった。

ほかにも同級生が学校に向かっている。

学校に着くと、体育館に案内された。1人だから、校長室じゃないの?

体育館の扉を開けると、みんながいた。約40人が、一斉に僕を見る。「音楽がないと寂しいよな」。友だちが言った。入場曲の「カノン」を、誰かが鼻歌で歌ってくれた。

「堺凰煌(おうが)」。名前を呼ばれ、練習どおりに背筋をぴんとさせて、校長先生から卒業証書を受け取った。振り返ると、みんなの顔が見えた。涙が出そうだったけど、唇をかんで我慢した。

「凰煌からみんなにひとこと」。集合写真を撮ったあと、担任の先生に言われた。「ありがとうございました」。僕の卒業式は、友だちのお母さんがみんなに呼びかけてくれたそうだ。

家に帰って、おばあちゃんに電話した。「きょう、卒業式してもらったんだ。1人じゃなかった。みんな来てくれたんだよ」(円山史)

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