デマ拡散、被災地の教訓 善意が裏目「責めるのは酷」

写真・図版逮捕された男性がツイッターに投稿したライオンの画像(熊本県警提供)

 災害時に拡散するデマ情報。ちょっとした出来心は、善意で危険を知らせる呼びかけの波にも乗り、瞬く間に広がっていく。恐怖におびえる被災者。必要な正しい情報が届かない恐れもある。うそも含まれていることを自覚し、正しい情報を見極めることが重要だ。

2016年4月14日夜。熊本地震の前震から約30分後、熊本市動植物園(同市東区)に電話がかかった。「ライオンが逃げていますか?」。無事を確認していた職員は「なぜだろう」と不審に思った。

原因はツイッターのつぶやきだった。「地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」。夜の街を歩くライオンの画像も添付されていた。翌日にかけて100本以上の問い合わせ電話があり、事務系の職員5人が対応に追われたため、緊急の連絡に支障をきたした。

熊本県警によると、投稿は少なくとも1時間で2万件リツイートされた。熊本県益城町役場の駐車場に家族でいた女性(64)も娘のスマホで知った。「着の身着のままで、避難したので、(ライオンが)逃げてきたらどうしようと怖かった」。園主査の大木昌之さん(44)は「迷惑な話ですよ。でも善意で(危険を伝えようと)リツイートした人を責めるのは酷かなとも思う」と話す。

日頃からツイッターを使う熊本市の大西一史市長はうそだと確認したが否定する投稿は見送った。「『市長も認めた』と加工されたり、情報を知らない人に伝わったりすることを避けた」と説明する。正確な情報がどこにあるのかを示すことで、デマの拡散を防ぐように心がけたという。川内原発(鹿児島)やイオンモール熊本で火災発生などの偽情報も拡散しており、「業務に支障が全くなかったとは言えない」と振り返る。

熊本県警は昨年7月、「ライオン」を流した神奈川県内の男性(21)を偽計業務妨害容疑で逮捕した。調べに対し、「見た人をびっくりさせたかった」と供述したといい、3月に不起訴処分(起訴猶予)となった。

ASAHI.COM

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