80歳の元教諭、難関大受験生に数学指導 東大合格者も
80歳の今も、難関大学をめざす受験生らに個人で数学を教えている。宮崎市吉村町の元高校教諭、相良一匡(かずまさ)さん。県立宮崎南高、宮崎北高や宮崎日大高で教壇に立った超ベテランだ。足腰は弱ってきたが、数学への情熱は衰えを知らない。
自宅は同町の一戸建て。6畳の洋間に机や椅子が置かれ、棚には数学の問題集が雑然と積まれている。
取材した4月7日は、高校1年の男子生徒が黙々と二次方程式を解いていた。生徒が教えを請うと、相良さんは虫眼鏡で問題をのぞき込み、解き方の道筋を途中まで示す。ヒントを与えるにとどめ、時間がかかっても自分の頭で考えさせるよう心掛けているという。
現役時代は学校の管理職に就くことを望まず、数学指導一筋を貫いた。40代のころ、著名な数学研究者の特別講義を聴くためパリ・ソルボンヌ大に出向いた。そこで知り合った研究者に誘われて、数学教育の国際学会に20年ほど名を連ね、英語で論文も提出した。
「勉強すればするほど、数学への情熱は尽きない」
定年退職後、教え子の親たちから請われ、宮崎市のビルの一室を借りて数学専門塾を開いた。齢(よわい)を重ねた今は自宅で看板も出さず、小中高校生5~6人に教えている。帰省中に習いに来る大学生もいるという。
「数学を好きになるか、嫌いになるかは指導者次第だ。数学嫌いを1人でも救ってあげたい」と話す。
受験指導では過去の入試問題を徹底的に研究する。東京大の場合は半世紀分の出題パターンを調べ上げ、東大生が大学の講義で解く問題や海外の入試問題も取り寄せて研究している。
この春、うれしい知らせがあった。中学から数学を指導した野崎浩将さん(19)=宮崎大宮高出身=が一浪の末、東大文科Ⅱ類(経済学系)に合格した。相良さんに数学だけ教わって、予備校などには通わなかった。浩将さんは「志望校のランクを下げたくなることが何度もあったが、相良先生が下げさせてくれなかった。お陰で、ここまで来られた」と感謝する。
実は、浩将さんの父親と兄2人も受験勉強の数学を相良さんに教わった過去がある。父親は九州大、長兄は大阪大、次兄は京都大へ進んだ。いずれも予備校などには通わず、相良さんに数学を教わって合格。相良さんは「何千人も教えてきたが、こんな例は初めて。福岡、大阪、京都、東京と新幹線ルートみたいだ」と喜んでいる。(伊藤秀樹)
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