兵どもが夢の跡… リオ五輪、施設たなざらし・廃虚化も
世界最大のスポーツの祭典の舞台は、祭りが終わって1年もたたないうちに、たなざらしになっていた。昨年8月の閉幕直後には、お金をかけない運営が評価されたブラジル・リオデジャネイロ夏季五輪。だが行政の資金難に加え、後利用法を真剣に考えてこなかった無計画さもあり、競技施設の多くは放置されたままだ。リオを引き継ぎ、3年後に五輪を開く東京にとっても、ひとごとではない。
競泳や柔道、テニスなどの競技施設が集まり、大会時はにぎわいの中心だったリオ市西部バーラ地区の五輪公園。東京ドーム25個分の敷地は平日は封鎖されている。土日祝日は市民に開放されるが、トイレも水道も日陰もなく、人影はまばらだ。
「こんなはずじゃなかった。五輪のレガシー(遺産)が我々、一般市民に引き継がれないことに怒りを感じる」。4月下旬の祝日、家族と訪れていたヘイナウド・サンタナ・ジアスさん(46)は話した。
公園内の競技施設は、ほとんど放置されている。萩野公介選手が金メダルを取った競泳会場。プールは移設されたが、解体費がまかなえず、建物の外壁などは残されたままだ。
中に入ると、いくつもの消火器がゴミのように散乱していた。隣にある屋外の練習用プール跡地には汚水がたまり、大量の蚊が飛び交っていた。「ゴミは持ち帰ろう」。観客に呼びかけるステッカーが床に貼られたまま、放置されていた。
日本柔道男子が全階級でメダルを取ったカリオカアリーナ2は、土日祝日でも立ち入れない。管理主体が市から政府に移ったものの、ブラジル代表選手のトレーニングセンター(トレセン)として改築する計画は実現していない。人の姿が全くない中、施設を老朽化させないために稼働させている空調の音だけが建物の外まで大きく響く。隣のアリーナ3は、市が学校に生まれ変わらせる計画だが、一向に進んでいない。
「市や国が民間業者に改修を依頼したくても、民間も金がないからどこも手を挙げない」。リオ大会組織委員会で残務処理にあたるマリオ・アンドラダさん(58)は嘆いた。組織委自身も資金難で、大会期間中に購入した物品の代金、計8千万レアル(約28億円)を払えないでいる。
五輪公園から北に15キロほどにある、羽根田卓也選手が銅メダルを取ったカヌー・スラローム会場などが広がるラジカルスポーツパークも、市が施設管理費を出せず、昨年12月から封鎖されている。警備にあたる市職員は「いつ再び開放されるか、我々にも全く分からない」とこぼした。
通りの向かいに座っていたマリア・ガルボンさん(49)は、息子が営む理髪店の奥から「日本」と書かれた扇子を持ってきてくれた。五輪開催時にこの場所でカフェを営んでおり、カヌー日本チーム関係者が訪れた際にもらったという。「日本だけじゃなく、世界中の選手や観客と交流でき、大会は素晴らしかった。早くこの場所にスポーツを楽しむ人たちの姿が戻ってほしい」。人の姿が消え、カフェは閉店に追い込まれた。
リオ市では今年1月に市長が交代した。五輪招致時から昨年12月まで市長を務めたパエス氏は、ブラジル検察当局が汚職捜査の対象として名前を挙げた98人の政治家リストに名を連ねている。元サッカー20歳以下ブラジル代表で、今はリオ市議のフェリペ・ミシェル氏(40)は「後利用についての無計画さ、汚職、市の資金不足。この三重苦のため、五輪のレガシーは市民に引き渡されていない」と憤る。そして、「東京はどうなっている? 今から後利用のことを真剣に考えないと、我々の二の舞いになるぞ」と警告をくれた。(平井隆介)
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