夏休み後の登校、無理しないで 自殺防止へ団体呼びかけ
夏休み明けに増える子どもの自殺を防ごうと、不登校支援などに取り組む団体が居場所を開放したり、子どもや保護者からの相談を受け付けたりしている。25日には5団体が合同で緊急メッセージを発表。「つらい時、支えてくれる味方はここにいる」と呼びかける。
「学校へ行きたくないあなたへ 味方はココにいます」と題した緊急メッセージを発表したのは、全国不登校新聞社など五つのNPO法人。「つらければ学校を休んで」と呼びかけ、相談先や学校以外の居場所の情報を提供している。
「自殺だけでなく不登校が始まるのも、長期の休みが終わった時が多い。子どもに大きなストレスがかかっている」と不登校新聞の石井志昂(しこう)編集長(35)。「問題解決の兆しは見えないが、味方がいることを子どもたちに知ってもらえれば」
同紙のサイトでは「9月1日がイヤだなって思ったら、自殺するより、もうちょっとだけ待っていてほしいの」という俳優の樹木希林さんのメッセージや、「いやなところからは、逃げよう、逃げて生き延びよう」という社会学者の上野千鶴子さんの言葉も並ぶ。
「学校がつらくてもココがあるよ!プロジェクト」を展開するNPO法人「フリースクール全国ネットワーク」(東京、http://freeschoolnetwork.jp/)のサイトでは、8月下旬から9月にかけて居場所を無料で開放したり、電話相談を受け付けたりする全国のフリースクールを紹介している。
いじめや嫌がらせを受けている子どもや保護者に向けて、「いますぐ役立つ脱出策」をサイトで紹介しているのは、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」(東京、http://stopijime.jp/)だ。「いつ、どこで、だれから、何を言われたか、されたか」を書き込むメモや「いじめ発見チェックシート」を掲載。須永祐慈副代表(38)は「つらいのは9月1日だけではない。すべての子が楽しく暮らせる環境づくりを大人が広げていく必要がある」と話す。
NPO法人「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」(東京、http://www.futoko-net.org/の事務局員で、子どもや親からの相談を30年近く受け続けている山口幸子さん(74)は、相談に対してアドバイスするのではなく、傾聴を心がけている。「話すことで気持ちが解放され、道が開けるかもしれません」
全国で約3千の児童館が加盟する児童健全育成推進財団は、「がまんできないほどしんどくなる前に、児童館にいってみよう」などと、生きづらさを抱えた子どもたちにSNSなどを使って来館を促している。(太田泉生)
■母の「行かなくてもいい」に救われた
「学校に行きたくない……」。東京都内に住む富山雅美さん(28)は、中学に入学してから同級生に無視されたり、「嫌い」と陰口を言われたりするようになり、初めてそう思った。
次第に同級生の声を聞くのが怖くなり、「飛び降りたら楽になるのでは」と思うほどに。耐えきれず、夏休み直前に「もう学校には行かない」と母に話すと、「気持ちわかるから、行かなくてもいいよ」と言われて救われたという。
9月1日から登校しなくなり、翌年からフリースクールへ。不登校の子どもたちが明るく過ごしているのを見て、「学校へ行けないことをマイナスにとらえなくていいんだ」と思えるようになった。不登校経験者らを受け入れる都立高校を経て大学で社会福祉を学び、今、私立中学校でスクールソーシャルワーカーとして働いている。
「私も中学生の時、つらくて死にたいと思ったことがあるけど、今すごく充実している。必ず幸せだなと思える時が来ると思うので、一人で抱え込まず、大人を頼ってほしいです」(杉山麻里子)
■「子ども変化に注意を」文科省、学校に要請
8月下旬から9月にかけての夏休み明けに子どもの自殺が増える傾向があることを踏まえ、文部科学省は小中高校などに、子どもの様子の変化を注意深く把握するなど自殺予防への積極的な取り組みを求めている。
具体的には、子どもの心身の状況に変化がないか注意し、自殺の兆候が見られたら一部の教職員で抱え込まず、保護者や医療機関などと連携して組織的に対応する▽保護者に対し、子どもの悩みや変化を把握したら積極的に学校に相談するよう学校の窓口を周知する▽自殺をほのめかす書き込みがないか調べる都道府県教委などのネットパトロールは夏休み明け前後、頻度を上げて集中的に実施する――などを挙げている。
内閣府が2年前、過去42年間の18歳以下の自殺者数を日別に集計した結果、最も多かったのは9月1日で131人だった。9月2日も94人、8月31日も92人で、夏休み明けは1学期の始まりの時期と並んで子どもの自殺が多かった。
また、厚生労働省自殺対策推進室によると、昨年9月の小中高校生の自殺は33人で、1月、4月、11月の35人に次いで多かった。
昨年改正された自殺対策基本法には、子どもの自殺予防策として、学校は「心の健康の保持」や強い心理的負担を受けたときの対処の仕方を身につける教育・啓発に努めるとの規定が盛り込まれた。これを受けて文科省が小中高校の啓発の実施状況を調べると、実施したのは全体の66・8%だった。文科省は不十分だとして、相談窓口の周知を含めたさらなる啓発をするよう呼びかけている。(片山健志)
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