電通社長、まつりさん母に一礼 「命失った責任は重い」
傍聴券を得るため抽選の列に並ぶ人たち=22日午前9時40分、東京・霞が関、柴田悠貴撮影
広告大手電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24)が過労自殺に追い込まれた長時間労働の一端が法廷で語られた。22日に東京簡裁で開かれた労働基準法違反事件としては異例の正式裁判。電通の山本敏博社長は法廷で、ずさんな労務管理を改めて謝罪した。
午前11時前。電通の山本敏博社長(59)はスーツ姿で法廷に入り、弁護側の席に座った。緊張した面持ちで時折、傍聴席にも視線をやった。予定より5分早く開廷し、菊地努裁判官が証言台の前に立つよう促すと、高橋さんの母幸美さん(54)に向かって深く一礼し、証言台に向かった。
検察官が起訴状を読み上げ、菊地裁判官から「内容に間違いがありませんか」と問われると、「ありません」と答えた。さらに違法残業の詳細な時間について「本当に間違いありませんか」と念押しされると、裁判官をまっすぐ見据え、答えた。「間違いありません」
弁護側からの被告人質問では「社長として責任を痛感している。特に高橋まつりさんの尊い命を失ってしまった責任は極めて重い。ご本人、ご遺族に改めておわびし、謹んでご冥福をお祈りします」と謝罪した。
傍聴席の最前列では、黒いスーツに身を包んだ幸美さんが、ノートにメモをしながら、代理人の川人(かわひと)博弁護士とともに裁判を見守った。時折、唇をかみながら聞いていた幸美さんは結審後、ハンカチで目頭を押さえた。
電通は事件を受け、今年1月に当時の社長が辞任し、労務担当の副社長ら役員を減給処分にした。再発防止策を作り、幸美さんに毎年、実施状況を報告することを約束している。
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