別れた娘へ、刑期を終えて押した「友達になる」ボタン
子どもたちは、クリスマスプレゼントで届いたラジコンカーやピアノを喜んだ。女性は「お父さんっていうか、年上の友達ができたみたいな感じです」と話す=20日午後、加藤諒撮影
2年近くの刑期を終えた男は、最初にスマートフォンが欲しかった。
ブラックリストに載っているのか、正規の店では契約できなかった。身分証を示さなくてもいい店を探し、大阪市内でレンタルのスマホを借りた。
男には、フェイスブックで「友達」になりたい女性がいた。手に入れたスマホにフェイスブックのアプリを入れ、すぐに女性の名前を探した。珍しい名だったから、まもなく見つかった。でも、この日は、それ以上何もできなかった。
17歳で山口組の傘下組織に入り、傷害などの罪で合わせて約15年服役した。その後、組から脱退したが、4年前に薬物事件で逮捕された。一昨年暮れに出所し、知人のつてで解体業を始めた。40歳をすぎ、もう前の生活には戻りたくないと思っていた。
スマホを手に入れて数週間。男は迷ったすえに、女性のフェイスブック画面で「友達になる」のボタンを押した。女性は自分からのリクエストに応えてくれるだろうか……。
数日待ったが、反応はなかった。あきらめて、フェイスブックを開くこともなくなった。
8カ月後。ふと気づくと、友達リクエストが「承認」されていた。男は、すぐにメッセージを送った。返信がきた。
《あの、私のお父さんですか?》
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