知床の昆布漁家、100年の営みに幕 番屋去る夏

北海道の世界自然遺産・知床に秋の風が吹き始めていた。8月末、知床岬に近い浜から小さな船外機船が海に出た。家財道具がめいっぱい積まれている。船上から日焼けした夫婦が、番屋をじっと見つめた。この浜で100年近く昆布漁を営んできた漁家が、歴史に幕を下ろす時だった。彼らの最後の夏を、訪ねた。

知床半島の先端付近に赤岩と呼ばれる浜がある。地元・羅臼町の市街地からは直線で約35キロ。道路はその真ん中あたりで途切れ、あとは断崖絶壁が連続する海岸だ。電気、水道、ガス、携帯電話の電波など公共インフラも一切ない。

原生の自然が残る知床の核心地域。そして、「昆布の王様」と言われる高級ブランド・羅臼昆布の好漁場だ。複数の小河川が知床連山の豊かなミネラルを海に運び、昆布に養分を与える。町内で最も長いとされる日照時間が、岸近くに昆布の密林をつくり出す。

午前6時、番屋前の旗ざおに白旗が上がった。昆布漁開始の合図だ。沖で確認した小倉毅(つよし)さん(51)が、箱めがねで海中をのぞき、昆布めがけてさおを突く。長さ数メートルのさおの先は二股形状だ。ここに昆布を巻きつけ、根ごと引き抜く。みるみるうちに船に昆布が山積みになった。

ASAHI.COM

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