「古い自民に回帰の印象」 20代学者が見た首相第一声
現・論 佐藤信氏と歩く選挙の現場(上)
ニュースの現場に識者と記者が足を運んで論考を深める「現・論(げん・ろん)」。若手政治学者の佐藤信さん(29)と10日、福島市に行き、自民党総裁の安倍晋三首相(63)による衆院選の第一声を聴きました。自民党を長く支援する人々が集まるなか、これからの政策よりも過去の業績を強調した演説と受け止めた佐藤さんは、政治家の言葉が有権者と政治との距離を近づけているのか、考えました。
演説場所が分からない公示日前日の9日夕、佐藤さんは東京・築地の朝日新聞社で記者と待機していた。首相の第一声の場所が分かり次第、ただちに現地入りするためだ。通例は公示日の数日前につかめるが、今回はなかなか分からず、福島市で第一声を上げるという確定情報が届いたのは9日夜。その後、慌ただしく移動することになった。
――福島市についたのは、9日深夜になりました。当初の想定よりも、かなり遅くなりました。
安倍首相は7月、東京・秋葉原での都議選遊説でヤジを浴び、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と対抗意識をむき出しにして批判されました。今回の衆院選では、反対勢力がまた会場に押しかけるのを嫌って、10月5~7日の街頭演説では日程を事前に公表しなかったと報じられています。街頭演説の場所を急きょ変更することもあったそうですし、今回、第一声の情報が直前になったのも、その「ステルス作戦」の一環なのかもしれません。
安倍首相の演説前に注目すべき点を語る佐藤信さん=戸田拓撮影
向かった先は田園地帯自民党からの案内では、場所は「踊る小馬亭向かい広場」となっていた。10日朝、福島駅前のホテルを出発し、西方にある会場に向かった。途中の道路には、多数の警察官が警備をしていた。約40分かけて目的地に到着した。
――なぜ、この場所なんでしょうか。福島市内でも駅前でなく、田園地帯です。安倍さんがこれから立つ演台の後ろには、刈り取りを待つ稲穂が茂っています。
福島という場所が選ばれたのは東日本大震災からの復興のアピールでしょう。2012年衆院選、13年参院選、14年衆院選と過去3回、福島県で第一声を上げていますし、験担ぎという側面もあるかもしれません。
ですが、この場所は被災や復興のシンボルのようなところではありません。「広場」というけれど空き地という印象ですね。タクシーの運転手さんが「どうしてここで」と不思議がり、集まったメディア関係者も「なぜ、こんなところで・・・」と驚いています。道中で「安倍はトランプのポチ」と書いた幕を垂らした黒塗りの車もみましたが、警戒線で止められてここまでは来ていません。
同時に、あえて背後の田んぼの稲を刈らずにおいたからには、この場所の選択は農業関係者へのメッセージでもあるはずです。第一声の内容に注目してみましょう。
会場に到着し、第一声を上げる安倍首相=戸田拓撮影
安倍首相が到着会場の入り口では、自民党が今回の選挙に向けてつくった「政権公約」が配られた。赤い表紙には安倍首相の顔が印刷されている。首相の到着前、マイクを持った男性の合図で迎える時にこのパンフレットを振る練習をした。首相の到着時にも、盛大に振られた。午前11時前から約20分、首相はマイクを握った。
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