焼きイモ売りのセンチュリー 毎冬出没、怪しげな人気者

まるでデコトラと族車と霊柩(れいきゅう)車のテイストをド派手にリミックスしたような、異形極まりないトヨタ自動車の最高級セダン「センチュリー」。近づくと、「♪いしや~きいも~」の売り声がダブ・ミックスの重低音で鳴り響き、サツマイモの甘い香りが漂う。行く先々で物見の人だかりと行列ができる石焼きイモの移動販売車だった。

この車で各地を回って営業するのは、木崎公隆さん(38)と山脇弘道さん(34)によるアートユニット「Yotta(ヨタ)」。移動販売車に改造されたセンチュリーは、「金時」と名付けられたアート作品だ。さらに、実際に焼きイモを売り歩くことで生まれる購買客や見物人との掛け合いやその光景の路上における異物感も、丸ごとひっくるめて芸術活動だという。かつて日常にあった猥雑(わいざつ)な風景を、現代によみがえらせる試みだ。2010年に東京・六本木の芸術祭に出品。以来、毎年冬になると大阪・ミナミの街頭や各地の催しなどで焼きイモを売り続ける。物珍しさから動画サイトや

SNSでは目撃情報の投稿が絶えない、知る人ぞ知る人気者になった。15年には、現代アートを対象にした「岡本太郎現代芸術賞」の最高賞を受賞している。

意図せざるシャコタン

ベース車の初代センチュリーは中古で買った1994年式。「ちょっと怪しいおじさんが、VIPが乗る高級車で庶民の食べものを売り歩く」という取り合わせの面白さから、このクルマを選んだ。ネットオークションでデコトラ用の安いカスタムパーツを買い集めたり、鉄工所に部品加工を頼んだりして改造した。もともと黒色だったボディーには、蒔絵(まきえ)をモチーフに金粉をまだらに吹き付けている。族車の竹やりマフラー風の筒は、かまどの煙突だ。内装にも、シャンデリア風のルームライトなど派手な装飾を施すが、エンジンや吸排気、駆動系はノーマルのまま。石焼き釜一式だけでも100キロ超の重さのため、後輪が意図せざるシャコタンになってしまい、族車っぽさに拍車をかける。突起物の寸法も法定内に納めて車検を通した。実際にハンドルを握り自走して販売場所に向かう。

イモにもこだわる

19日に東京・お台場であったクラシックカーの催し「お台場旧車天国2017」には、カスタムカー出品と屋台出店を兼ねたような独自の立ち位置で登場。名車・珍車が並ぶ会場でもひときわ異彩を放ち、朝から親子連れらが列をなした。

仕入れからこだわったイモは、上質な甘さで知られる徳島県産「里むすめ」。木崎さんが慣れた手つきでかまどに薪をくべてイモを並べる。焼き上がりまでおよそ1時間。焼け具合は見た目には分からず、厚手の軍手越しに触って感じるイモ自体の熱さで判断する。素人同然で始めたが、いまや見極めに迷いはない。焼きたての「中」サイズ税込み700円を二つに折ると、香ばしい湯気がふわっと立ちこめる。調味料を加えていないのが信じられないぐらい、ものすごく甘い。ちょうど午後3時半のイベント終了間際に、積んできた5キロ箱17個分を完売した。

ここ数年は創作活動に忙しく、なかなか路上に出られない日が続く。だが、日数は減っても営業はやめないつもりだ。「飽きられるまで続けたい」と山脇さんは意気込む。コンビニで出くわしたテキ屋に気に入られて縁日の出店を誘われたが、まだ実現はしていない。(北林慎也)

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