震災生きた命こそ… 原田マハさんが小説に込めた思い
阪神・淡路大震災から23年。戦後初めて大都市を襲った地震は、それまでの価値観を打ち崩し、数々の文学の題材になった。最近、震災をテーマにした作品を出版した原田マハさんに込めた思いを聞いた。
岡山の高校から兵庫県西宮市にある大学に進学し、学生時代はよく神戸を訪れました。海と山に囲まれた美しい街並み。オシャレな輸入雑貨やグルメの店。私にとって宝石箱のような街です。卒業後、東京の商社に勤めていた時に震災が起きた。ニュースで変わり果てた街を見て、衝撃で立ちすくみました。
学生時代に友人とシェアしていた阪急西宮北口駅近くの木造2階建てアパートは全壊。1階に住んでいた友人は奇跡的に無事でした。被災地に行けたのは1カ月後で、すぐに力になれなかったことがずっと心残りでした。
東日本大震災のあと、再び自分の無力さを感じながら、一介の物書きとして何ができるのか悩みました。そんな時にテレビのドキュメンタリー番組で、津波に流された亡き妻を語る男性の姿を見たんです。
あの日、夫婦で高台に避難する途中、男性の妻は「隣に住む足の不自由なおばあちゃんが心配」と、自宅のある方へ戻ってしまったのです。もし妻を強く引き留めていれば助かったかもしれない。
でも、助けに戻らなければ一生悔いが残ったに違いない。命の瀬戸際に立たされ、男性は妻もおばあちゃんも救えなかった。二重の苦しみを抱えて懺悔(ざんげ)する男性のために、何かを捧げたいと決心しました。
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