芥川・直木賞きょう発表 受賞者でない選考委員も

写真・図版昨年7月に第157回芥川賞・直木賞の受賞作が決まった際、張り出された作品名と顔写真=東京都千代田区、関田航撮影

第158回芥川賞・直木賞の選考会が16日午後5時から、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれます。最終選考に残ったのは、それぞれ5編。どの作品が賞にふさわしいか、ベテラン作家たちが務める選考委員が意見を交わします。

選考過程は委員が候補作に○、△、×で投票したり、その意図について討議したりを繰り返しながら、受賞にふさわしい作品を絞っていきます。「ほとんどけんか状態」の激論になることもあるそうです。それだけ、確固たる文学観を持つ作家たちが受賞作を決めているのです。

選考の司会は、実質的に賞を運営する文芸春秋の編集者が務めます。芥川賞・直木賞を取材していると、「司会が1票を持っている」という言葉をよく耳にします。もちろん、本当に○、△、×をつけられる「1票」を持っているわけではありませんが、議論の仕切り方によっては選考に影響を及ぼしかねないからです。

受賞者は「芥川賞作家」「直木賞作家」という「看板」を手に入れて、世間の認知度は格段に高まり、作家としての将来を左右します。

とはいえ、村上春樹さんのように芥川賞を逃しても活躍を続ける作家はたくさんいます。実は、選考委員のなかにも、芥川賞や直木賞を受賞しなかった作家がいるのです。

芥川賞小川洋子奥泉光川上弘美島田雅彦高樹のぶ子堀江敏幸宮本輝村上龍山田詠美吉田修一の各氏が選考にあたります。

このうち島田雅彦さんは芥川賞受賞者ではありません。6回も候補に挙がりながら、いずれも落選した経験の持ち主です。山田詠美さんも芥川賞に3回候補になりながら、受賞しませんでした。ただし、直木賞を受賞しています。

直木賞の選考委員は浅田次郎伊集院静北方謙三桐野夏生高村薫林真理子東野圭吾宮城谷昌光宮部みゆきの各氏です。

直木賞受賞者ではないのが、北方謙三さん。3回候補になりましたが、受賞はしませんでした。

2015年には、お笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞して話題になりました。今回はどんな候補者が、どんな作品を書いているのか。芥川賞と直木賞の候補10人の略歴とあらすじをご紹介します。

芥川賞候補

石井遊佳さん

1963年、大阪府枚方市生まれ。さまざまな職業を経たのち、東京大学大学院で仏教を学んだ。現在は夫とともにインド・チェンナイに住み、日本語教師を務めている。今回、芥川賞の候補作となった「百年泥」で、昨年第49回新潮新人賞を受けた。

「百年泥」は自らの思いとは反し、チェンナイで日本語教師をすることになった女性が100年に一度という洪水に遭う。そして濁流に流され、積み重なった泥から現れたものにまつわる出来事を追体験する、という不思議な味わいの作品だ。

木村紅美さん

1976年、兵庫県生まれ。小学校6年生から高校卒業まで宮城県で過ごし、明治学院大文学部を卒業後、2006年に「風化する女」で文学界新人賞を受けてデビューした。08年に「月食の日」で芥川賞の候補になり、今回が2度目の候補入りだった。

候補作「雪子さんの足音」は、東京・高円寺の家賃5万円のアパート「月光荘」が舞台。夫と息子に先立たれて一人で月光荘を管理する大家の雪子さん、男子大学生の薫、会社勤めをしている小野田さんという女性の3人が、それぞれの孤独を抱えながら時に支え合い、時に傷つけあう物語だ。

前田司郎さん

1977年、東京都品川区生まれ。大学在学中の97年に劇団「五反田団」を旗揚げ、作・演出を担当している。2008年「生きてるものはいないのか」で岸田國士戯曲賞、15年「徒歩7分」で向田邦子賞を受賞。小説家デビューは05年で、09年に「夏の水の半魚人」で三島由紀夫賞を受けた。

候補作「愛が挟み撃ち」は、30半ばを過ぎて不妊治療を始めた夫婦が、学生時代の友人に精子提供を頼んだことから、過去と現在の三角関係がオーバーラップする小説。性や愛にまつわる常識に問いを投げかける作品だ。

宮内悠介さん

東京都生まれ。幼少時代を米国で過ごし、中学生のときに帰国した。2010年に創元SF短編賞山田正紀賞を受賞し、このときの受賞作を収めた単行本デビュー作「盤上の夜」は日本SF大賞を受けた。他の作品に「彼女がエスパーだったころ」(吉川英治文学新人賞)、「カブールの園」(三島由紀夫賞)など。芥川賞の候補入りは今回が2回目で、直木賞でもすでに3回候補になっていた。

候補作のタイトル「ディレイ・エフェクト」は、直訳すれば「遅延効果」。第2次大戦下の出来事が現実と重なって人々の眼前で進行するディレイ・エフェクト現象が発生し、東京が大混乱に陥る物語だ。主人公の男性が、義理の祖母や曽祖父母の暮らしを戦禍が襲うさまを目の当たりにして、妻や娘との生活を自らに問い直していく。

若竹千佐子さん

1954年、岩手県遠野市生まれ、千葉県在住。岩手大学卒業後、結婚して上京。主婦をしながら小説学校に通う。本作で昨年、文芸賞を受賞し小説家デビューしたばかり。

候補作「おらおらでひとりいぐも」は、15年前に夫が亡くなり、子どもも家を出て一人暮らしをする74歳の主婦桃子さんが主人公。孤独と衰えを前向きにありのままとらえ、老年だからこその自由さを描いた。自分の中からわき出る複数の思考を、岩手弁で重層的に繰り出すように語り、地の文では標準語を使ったメリハリのある文体。積極的に生きる主人公の姿勢がテンポ良く展開する。題名は宮沢賢治の詩「永訣の朝」の一節と同じだが、意味は逆で「私は私で独り生きていく」という気持ちを込めた。

◇直木賞候補

彩瀬まるさん

1986年千葉市生まれ。上智大学卒業。2010年「花に眩(くら)む」で女による女のためのR―18文学賞読者賞。12年「暗い夜、星を数えて」は旅先の福島での被災体験を書いたノンフィクション。13年「あのひとは蜘蛛(くも)を潰せない」で小説家デビュー。16年「やがて海へと届く」で野間文芸新人賞候補。直木賞の候補になるのは初めて。

候補作「くちなし」は、別れた不倫相手から片腕をもらい、その腕をいとおしんで暮らす表題作をはじめ、恋人や夫婦など男女の日常に、残酷な幻想を少し取り入れた、7編からなる短編集。

伊吹有喜さん

1969年、三重県出身。中央大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2008年に「風待ちのひと」でポプラ社小説大賞・特別賞を受け、デビュー。「ミッドナイト・バス」は、14年に山本周五郎賞と直木賞の候補になった。

候補作「彼方の友へ」は、雑誌づくりに夢と情熱を抱いた女性の奮闘ぶりを活写。戦争が暗い影を落とした時代から平成に至るまでの人生の起伏を、温かい筆致で描く。画家中原淳一らが活躍の舞台とした実在の雑誌「少女の友」の魅力に、伊吹さんが触発されて生まれた作品という。

門井慶喜さん

1971年、群馬県生まれ。同志社大卒。大学職員として働いた後、2003年にオール読物推理小説新人賞を受け、06年に「天才たちの値段」でデビュー。評論「マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代」で日本推理作家協会賞、「東京帝大叡古(えーこ)教授」「家康、江戸を建てる」で直木賞候補。

候補作「銀河鉄道の父」は、国民的作家、宮沢賢治とその家族の生涯を、父政次郎の視点から書いた。岩手・花巻で質屋を営む政次郎は、明治生まれの父親らしく厳しくあろうとする一方、夢を追い続ける賢治を隠しきれない愛情で支える。天才だが、社会的能力に欠ける子を愛憎の念を持って育てるという、現代の父親にも通じる思いを描き出している。

澤田瞳子さん

1977年、京都生まれ。同志社大卒業後、同大学院博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。2010年のデビュー作「孤鷹(こよう)の天」で中山義秀文学賞。奇想の画家を描いた15年の「若冲(じゃくちゅう)」で直木賞候補となり、16年の親鸞賞を受けた。

候補作「火定」は、奈良時代平城京で、多くの人々の命を奪った天然痘の大流行と、特効薬のない疫病の蔓延(まんえん)を防ごうとする、医師たちの奮闘を描いた。一方で混乱に乗じてもうけようとする悪党や、パニックに陥り暴動を起こす民衆など、人間の光と闇の部分も浮かび上がらせた。

藤崎彩織さん

1986年大阪府吹田市生まれ、洗足学園音楽大学卒業。2011年に4人組バンド「SEKAI NO OWARI」でメジャーデビュー。Saoriとしてピアノを担当する。本名で出した初めての小説で直木賞候補となった。

候補作「ふたご」は、孤独な少女が繊細で不良めいた少年と出会い、互いに傷つけ、ひかれあいながらも、音楽を通して自分たちの居場所を見つけてゆく。まだ何者でもない不安や葛藤を素直な言葉でつづった。デビューまでの自身の経験と重なるようにも読める長編小説だ。

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