明社長が退いたジャパネットの今 38歳長男社長の試み

写真・図版実店舗の「ジャパネット・レクリエーション・ラボ」では来客者の商品体験を常駐の取材班が撮影することも=福岡市西区

テレビ通販の司会者として、お茶の間で「日本一」有名な社長だった高田明(あきら)(69)が、通販番組から姿を消して丸2年がたつ。一代で築いた「ジャパネットたかた」(長崎県佐世保市)は、2015年に現社長の長男旭人(あきと)(38)が継いだ。カリスマ創業者の退任は、最大の経営リスクともいわれたが、社長交代後も勢いは続いている。

「父は天才。同じことをやるのは無理」。旭人は、会社のかたちを変えることで「危機」を乗り越えようとした。17年12月期の売上高は1900億円を超えて、2年連続で過去最高を更新する見込みだ。

福岡市郊外の商業施設に、同社が16年に全国で唯一設けた実店舗がある。テレビでおなじみの商品を自由に体験できる。「なめらかで、家じゃ作れないね」。1月下旬、家族連れが、カメラの前で新商品のスープメーカーを体験していた。収録された映像は早速、週明けのテレビ番組のなかで使われた。

明は大きな身ぶりと甲高い声で、「電子辞書」や「布団クリーナー」など、大ヒットを連発した。しかし、「父が抜けて、商品の良さを個の力で伝えられる司会者がいなくなった」(旭人)。実店舗は商品を売るためではなく、消費者の感想を集めるための仕掛けなのだ。

通販業界はアマゾンや楽天などが隆盛で、競争は激化している。ネット通販の強みは豊富な品ぞろえで、少量しか売れない商品でも長い期間で一定量を売る「ロングテール」の戦略。ジャパネットは正反対の「少品種大量販売」だ。優秀なバイヤーでもあった明が厳選した商品を、大量に売り抜く手法だった。

旭人は企業風土から変えようとした。一人への依存から、各分野の責任者からの積み上げで方針を決めるようにした。持ち株会社を強化し、アフターサービスや物流など部門ごとに分離・独立させ、グループを9社に再編。当初4人だった役員は2倍以上となり、部長も大幅に増えた。

変化は商品の発掘に現れてきている。それまでは明の直感が大きかった。旭人のやり方は、「なぜその商品なのか各自が根拠を説明できるように」。その中で「コト消費」への流れをとらえたクルーズ船旅行が生まれた。17年に旅行業に本格参入。販売好調で、今年は日本を周遊する大型客船の貸し切りも実施する。

商品以外でも改革が進む。実は、同社はテレビを通じての受注は全体の2割で、カタログなど紙媒体が4割を占める。中高年層を中心にリピーター客が多く、商品購入後の満足度は重要だ。

そのために、東京都江東区のオフィスでは、アフターサービスで顧客の問い合わせに応じる従業員の半数が、故障した主要商品の修理作業も行う。この仕組みも旭人が14年から導入した。商品に精通することで電話対応が向上し、修理期間もメーカーに出すより半分以下に短縮できた。

明は社長を退いたあとは、社内では何の役職に就かず、会議にも一度も出ない。「相談役にでも就いたら、みんなが僕の所に来て二重構造になるから」

社長交代にはきっかけがあった。家電エコポイント制度の終了などで、12年の売上高は2年前比で3割超も減少した。その年末に全社員の前で明が、「1年で最高益を達成できなかったら社長を辞める」と宣言したのだ。実際には副社長だった旭人を中心に商品構成の見直しでV字回復した。

ただ、当時はまだ事業承継を真剣に考えていなかった明も、「任せれば若い人たちもやれるんだ」と気付かされたという。

「不安なく事業を継がす人なんて一人もいない。だが、企業理念さえ後継者と共有してぶれなければ、環境に応じて戦略も目標だって変わっていい」=敬称略(湯地正裕)

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