友人かばい、いじめで自殺 調査で浮かんだ息子の優しさ
小さないのち 悲しみと歩む
2010年6月、川崎市の中学3年生だった篠原真矢(まさや)さん(当時14)の姿を自宅で見つけたのは母親の真紀さん(51)だった。救急隊員や警察官にいろいろ聞かれたが、よく覚えていない。告別式の最中も現実感はなく、ドラマの中にいるかのように感じた。ひつぎにふたをするとき、別れが本当のこととして胸に迫り、声を上げて泣いた。
4人の同級生からいじめを受けていた。いじめられていた友だちをかばっているうちに、真矢さん自身も2年生のころから標的になった。頭をたたかれる、馬乗りされる、蹴られる、ジャージーのズボンやパンツを下ろされる……。「いじられキャラ」に見立てられてしまった真矢さんへのいじめは、しだいにエスカレートしていった。
自殺の前月、真矢さんはいじめていた生徒1人の教科書をカッターで切り裂いてしまった。「これこそSOSのサインだったのに」と、市の教育委員会で調査にあたった当時の担当者は悔やむ。
【これまでの連載】
特集「小さないのち」
学年の男子全体に「うざい」「死ね」など乱暴な言葉が広がっていたが、組織的な生徒指導はなかった。調査報告書は、担任の認識が甘く、教員間の連携も不十分だったと指摘。いじめが自殺の一因になったと結論づけた。
篠原さん夫妻は、学校や市教委との話し合いなどにあたり、いじめで自殺した子の遺族らでつくるNPOの支援を受けた。真矢さんの死から1年ほどたち、夫妻はそのNPOで遺族を支える側に回った。そんな気持ちになれたのは、市教委の調査結果を受け入れられたことが大きかった。
わが子を自殺で失った両親が、同じような境遇の遺族に寄り添いながら、学校でのいじめや事故の防止を訴えている。いじめられた友人をかばい、自らも標的になった息子。なぜ死に追いやられたのか。本人の気持ちをくみ取ろうと努めた教育委員会の調査を受け入れたことで、両親は前を向けた。
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