タワマンも、農地の住宅も…作りすぎが生む負動産リスク

写真・図版都心のタワーマンション=「老いる家 崩れる街」から、野澤教授提供

マンションや住宅が次々と建つことは、経済を活性化させて人口を増やすために「良いこと」とされてきた。だが、東洋大学の野澤千絵教授(都市計画)は、近著「老いる家 崩れる街」(講談社現代新書)で現状を「住宅過剰社会」と名付け、警鐘を鳴らしている。定義はこうだ。

「世帯数を大幅に超えた住宅がすでにあり、空き家が右肩上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼畑的に広げながら、住宅を大量につくり続ける社会」(「はじめに」から)

何が問題なのか。「住宅が将来、『負動産』になりかねない」という野澤教授に、著書をもとに尋ねた。

タワーマンションのリスク

東京では湾岸地区を中心に、街の風景が急激に変化してきている。次々とタワーマンションが立ち並び、人口が急増しているのだ。東京五輪選手村周辺(中央区と江東区の湾岸エリア)では、2014年末の人口が8万6千人だった。都は東京五輪後には14万6千人になり、将来的には19万人になると予測している。

高さが100メートルを超えるタワーマンションが林立したのは、からくりがある。「都心居住の推進」と、それを背景にした「規制の緩和」だ。

バブル期、地価の著しい高騰で都心は人口減にあえいだ。そのため国や自治体は「都心居住」を進めることが長年の懸案になっていた。特に00年以降、国も都も経済対策などとして、容積率(敷地に対するのべ面積の割合)などの規制を大幅に緩和してきた。

都心に比較的近い湾岸エリアは、産業構造の変化、バブル経済の崩壊、08年のリーマン・ショックなどの影響で操業を止めた工場や倉庫の跡地が残されていた。

そこに商機を見いだした大手ディベロッパーが、次々とタワーマンションを建てたのだ。超低金利、共働きで職住接近のライフスタイルの広がりや不動産投資の活発化もタワーマンションの需要を支えるようになった。

人気があり、売れるなら何が問題なのか。野澤教授は「タワーマンションの林立で住宅の量が積み上がることによる、市街地環境や生活インフラへの影響を全体としてコントロールできていないこと。あるべき都市の姿というゴールがない規制緩和と開発が問題なのです」と話す。

湾岸エリアには、こんなことが起きている。

「あまりにも多くの超高層マンションが林立したために、お互いの眺望を阻害し合うという事態にまでなっています」「周辺の別の敷地に後から建てられる超高層マンションによって眺望を阻害されることに対しては、無力ということがわかります」(第1章から)

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