20m流された実家、連絡取れぬ両親 厚真で30人不明
山肌が大きく崩れていた=2018年9月6日午前7時34分、北海道厚真町、朝日新聞社機から、山本壮一郎撮影
30人を超える住民の安否が分からない北海道厚真(あつま)町。吉野地区は、裏山が頂上付近から幅広く崩れ、集落が一気に土砂にのまれた。
会社員脇田之正さん(68)は、倒壊した家から、はだしのまま命からがら逃げ出した。「どーん、と下から突き上げるような衝撃があった。続いて横揺れが来たと思ったら、家が流され、なにがなんだかわからなかった」
日の出前で、周囲は真っ暗だった。家に取り残された妻(56)と母(91)に「大丈夫かー」と声をかけると、小さな声が返ってきた。明るくなるまで待って、助け出すことが出来た。「家族3人が助かって運がよかった」
同町朝日では、土砂崩れで数十メートルにわたって茶色い山肌がむき出しになった。倒木がふもとの民家を巻き込み、倒れた電柱から電線がたれさがっている。
江別市から駆けつけた道庁職員畑島久雄さん(54)が、壊れた家から20メートルほど離れた路上にいた。実家の父武司さん(86)と母富子さん(81)と連絡が取れていない。
2階建ての実家は、元の場所から約20メートルも押し流され、1階が土砂に埋まった。「1階の山側に寝室があって、両親は普段そこで寝ている。とにかく救助を頑張って欲しい」と言葉少なに話した。
地震が起きたのは午前3時過ぎだった。町内で米穀店を営む鬼頭啓治さん(61)は就寝中に、ドーンと突き上げるような縦揺れを感じて跳び起きた。激しい横揺れが30秒ほど続き、寝室のテレビは倒れ、食器棚の食器は落ち、ピアノは約50センチ動いたという。気象庁によると、町に震度を測る機械は設置されているが、データが送られて来ず、正確な震度は分かっていない。「しばらく歩けなくて、じっとしていた。十勝沖地震を経験したが、ここまでではなかった」
家の近くでは、道路が所々盛り上がって段差やヒビが出来ている。「停電で、水も出ない。お風呂に残ったお湯でトイレを流し、カセットコンロを使っている」
震度6強を観測した安平(あびら)町の早来小学校では、早朝から教員が避難所の開設に追われた。午前10時半の時点で122人が身を寄せていた。
佐藤智久さん(35)は、妻と小学5年生の長女の腕を引っ張って避難した。「棚やレンジ、テレビも倒れて、家の中はぐちゃぐちゃ。片付けたいが、余震が怖くて戻れない。牧場をやっているので馬のことも心配だ」と話した。
無職福村弘夫さん(80)方では、築50年の木造平屋建てが傾いたという。玄関のドアは開かなくなり、裏口のドアを物干しざおで破って外に出たという。「台風21号で物置の屋根が飛び、昨日、修理したばかり。家も物置ももうだめ」と肩を落とした。
ここでも停電や断水が続いている。同校の金子重人校長(59)は「仮設トイレを町役場に要請しているが、なかなか来ない。食料や水のほか、赤ちゃんもいるのでミルクも必要だ」と訴えた。
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