布施英利さんと歩く藤田嗣治展 丸メガネ越しに見た虚実

写真・図版「自画像」(1929年、東京国立近代美術館蔵)と並んで立つ布施英利さん=2018年8月23日、東京・上野の東京都美術館、慎芝賢撮影

日仏を舞台に活躍した画家・藤田嗣治(つぐはる)(1886~1968)といえば、おかっぱ頭に丸メガネ姿で知られる。「藤田嗣治がわかれば絵画がわかる」の著者で美術批評家の布施英利さん(58)も実は、そっくりな風貌(ふうぼう)をしている。その布施さんと、開催中の「没後50年 藤田嗣治展」の会場を歩いた。

ふせ・ひでと 1960年生まれ。美術批評家、解剖学者。東京芸術大博士課程では美術解剖学を専攻。養老孟司氏の下で東京大医学部助手を務めた。著書に「脳の中の美術館」など。

「若いころから、少し藤田に似ているとは言われていました」と布施さん。30代のときにマッシュルームカットにしたら、「結果的に髪形も似てしまい、だんだん言われているうちにその気になって、メガネも丸にしました」と明かす。

というわけで、まずは藤田の自画像が多数集まる第3章に足を運ぶ。向き合ったのが、「素晴らしき乳白色」の肌の裸婦像を世に送り出した後の1929年の「自画像」だ。

得意の女性像を背景に、おなじみの姿で細い筆を持って、こちらを見つめる。「自画像の多いレンブラントは、飾らない自身の姿を絵にしましたが、藤田は、自分をキャラクター化して自己宣伝として描きました」と指摘する。

この自画像と比べるために布施さんが立ち止まったのが、晩年の宗教画が集まる第8章の「礼拝」(62~63年)の前だ。この絵にも藤田自身が描かれている。「若いころの自画像はこちらを見据えているのに、ある時期からは違った方向を見ていて、心ここにあらずのようにも見えます」

布施さんは「当初は鏡を見て描いたから、目がこちらを見ているのでしょう。つまり実際の世界を見て描いている。でも晩年は、実際に見て描いていたわけではないと思います」と指摘し、「今回の展覧会で改めてその『曲がり角』に気づきました」と話す。

ASAHI.COM

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